認知症患者の身体拘束問題：介護現場の実態と、私たちができること
認知症患者の身体拘束問題：介護現場の実態と、私たちができること
この記事では、認知症の祖父が入院先の病院で身体拘束を受けていることに心を痛める女子高校生からの切実な相談を基に、介護現場における身体拘束の問題点と、私たちができることについて掘り下げていきます。介護の現場で働く方々、介護を必要とする家族、そして将来のキャリアを考えている若い世代の方々にとって、役立つ情報を提供します。
医者と看護師は、なぜ認知症患者をベッドに縛り付け拘束するの！？
私は女子高校生です。両親はデザイン関係の仕事に就いています。
私の祖父は60代。現役時代は建築会社の社長でした。
ほんの数ヶ月前まで「軽度」の認知症を患っていました。ショックでした。
現実を受け入れることが出来ず・・・。慣れるまで月日がかかりました。
けれど、家族みんなで色々勉強したり実際にそういう患者を受け入れている介護福祉施設に見学に行ったりして、何とか対応してきました。ちょっとした忘れ事や感情表現に戸惑っても、許容範囲で受け止められました。
その祖父が数ヶ月前に病に倒れ救急車で搬送され・・・今現在も入院しています。食道癌という病気で、体内の他の部位にも転移しています。
重症で今現在も治療中。祖父は頑張っていますが、苦しい闘病中で見ているのが辛いです。
だけれど、私がより心配なのは癌治療ではありません。「認知症」の方です。
「中等度」の認知症患者に成ってしまいました。入院してから症状が更に悪化したんです。
理由は病院側が祖父を病室ベッドに「身体拘束」し続けたから。『身体拘束に関する同意書』みたいなものに家族が署名させられたみたいです。
キッチンで使う、鍋つかみみたいなものを手の指先から手首より上につけられ、足首から膝近くまでギブスみたいな、サポーターみたいなものを巻きつけられています。腰からお腹あたりにもそのようなものが巻きつけられています。
それらに繊維で作られたベルトみたいなもので病室ベッドにいる間、ずーーーーーーーとベッドの柵に縛り付けられているのです。動けません。自分で外すことも出来ません。
透明のプラスチック製マスクを装着し、何重も着込み、防護服みたいな感じの格好で身を固めた命令口調の看護師たちが3人がかりで拘束されている祖父に対処します。看護師たちが嫌々対処しているのが目に見えて分かります。
拘束されている祖父を拘束したままで・・・。体を拭いたり、口内ケアをしようとすると酷く嫌がります。目の色を変え、充血した状態で「あーーー、うーーー、あーー！！！やめろっ！！！」などと叫び、拒否し続けます。
それをあきれ果てたような、蔑むような目で見る看護師たち。「あーあーーちぇっ！あの爺さん、うざっ！！！早く死んでくれないかな？」等とナースステーションで苦笑しながら小言で言うのを聞いてしまいました。
身体拘束とは何か？なぜ問題なのか
身体拘束とは、介護や医療の現場において、患者や入居者の身体を物理的に制限する行為を指します。具体的には、ベッドからの転落防止のために手足や体を拘束する、移動を制限するために車椅子やベッドに縛り付ける、といった行為が挙げられます。身体拘束は、患者の尊厳を傷つけ、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、倫理的にも問題視されています。
身体拘束が問題視される主な理由は以下の通りです。
- 人権侵害： 身体拘束は、個人の自由を奪い、自己決定権を侵害する行為です。
- 心身への悪影響： 長期間の身体拘束は、筋力の低下、関節の拘縮、褥瘡（床ずれ）のリスクを高めます。また、精神的な苦痛や不安、抑うつ状態を引き起こす可能性もあります。
- 認知機能の悪化： 身体拘束によって活動量が減少し、刺激が不足することで、認知症の症状が悪化することがあります。
- 医療従事者の負担増： 身体拘束を行うためには、定期的な観察や記録が必要となり、医療従事者の負担が増加します。
日本では、身体拘束は原則として禁止されており、やむを得ない場合に限り、一定の条件の下で行われることが認められています。しかし、現実には、身体拘束が安易に行われているケースも少なくありません。特に、認知症患者に対しては、転倒や徘徊を防ぐために身体拘束が行われることが多いのが現状です。
なぜ身体拘束が行われるのか？背景にある課題
身体拘束が行われる背景には、様々な課題が存在します。主なものを以下にまとめます。
- 人手不足： 介護・医療現場の人手不足は深刻化しており、十分な人員を確保できない状況が続いています。人手が足りないために、一人ひとりの患者にきめ細やかな対応をすることが難しくなり、身体拘束に頼ってしまうことがあります。
- 知識・技術の不足： 身体拘束をせずに、安全を確保するための知識や技術が不足している場合があります。例えば、転倒リスクの高い患者に対して、適切な環境整備や、見守り、声かけなどの対応ができていないケースです。
- 施設側の意識： 施設によっては、身体拘束を「安全対策」として安易に考えている場合があります。身体拘束を行うことが当たり前になっている、という意識も問題です。
- 家族の不安： 家族が、転倒や徘徊による事故を恐れて、身体拘束を希望することがあります。家族の不安に応えるために、身体拘束が行われることもあります。
- 患者の理解不足： 身体拘束に対する患者本人の理解が得られていない場合、抵抗や不信感につながり、状況が悪化することがあります。
これらの課題を解決するためには、多角的なアプローチが必要です。具体的には、人手不足の解消、職員の教育・研修の充実、施設側の意識改革、家族への情報提供と相談支援、患者本人の意思尊重などが求められます。
身体拘束を減らすためにできること
身体拘束を減らすためには、様々な取り組みが必要です。ここでは、具体的な方法をいくつか紹介します。
- 環境整備： 転倒のリスクを減らすために、手すりの設置、床の滑り止め対策、照明の明るさの調整などを行います。また、徘徊する患者のために、安全な範囲で自由に歩き回れるような環境を整えることも重要です。
- 見守り： 患者の行動を注意深く観察し、危険な行動を未然に防ぎます。声かけや、寄り添うことで、患者の不安を軽減することもできます。
- コミュニケーション： 患者とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を築きます。患者の思いや希望を理解し、それに応じたケアを提供することが大切です。
- リハビリテーション： 身体機能の維持・向上を目指し、リハビリテーションを行います。筋力やバランス感覚を高めることで、転倒のリスクを減らすことができます。
- 多職種連携： 医師、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士、管理栄養士など、多職種が連携し、患者の状況に応じたケアを提供します。
- 家族との連携： 家族と情報共有し、患者の状況やケアの方針について理解を深めます。家族の不安を軽減し、共に患者を支える体制を築きます。
- 研修の実施： 介護・医療従事者に対して、身体拘束に関する知識や技術、代替ケアの方法に関する研修を実施します。
これらの取り組みを実践することで、身体拘束を減らし、患者の尊厳を守りながら、質の高いケアを提供することが可能になります。
介護・医療現場で働く方々へ：身体拘束をしないための具体的な対策
介護・医療現場で働く方々にとって、身体拘束をしないための具体的な対策は非常に重要です。以下に、実践的なアドバイスをまとめます。
- アセスメントの徹底： 患者の身体的・精神的状態、生活歴、環境などを詳細にアセスメントし、身体拘束が必要となる原因を特定します。
- リスク管理： 転倒や徘徊のリスクを評価し、リスクに応じた対策を講じます。
- 代替ケアの検討： 身体拘束の代わりに、どのようなケア方法が有効かを検討します。例えば、見守り、声かけ、環境整備、リハビリテーションなど、患者の状況に合わせた方法を選択します。
- 記録の徹底： 身体拘束を行う場合は、その必要性、方法、時間、患者の反応などを詳細に記録します。記録は、身体拘束の見直しや、ケアの改善に役立ちます。
- チームでの情報共有： 患者に関する情報をチーム全体で共有し、連携してケアを行います。
- 研修への参加： 身体拘束に関する知識や技術、代替ケアの方法に関する研修に参加し、スキルアップを図ります。
- 倫理観の醸成： 身体拘束は、患者の尊厳を傷つける可能性があることを常に意識し、倫理的な視点を持ってケアを行います。
これらの対策を実践することで、身体拘束を減らし、患者のQOL（Quality of Life：生活の質）を向上させることができます。
家族ができること：情報収集と、適切なサポート
家族は、認知症の患者が身体拘束を受けていることに気づいた場合、様々な行動を起こすことができます。以下に、具体的な対応策をまとめます。
- 情報収集： 身体拘束が行われている理由、方法、時間などを、病院や施設の関係者に詳しく説明を求めます。身体拘束に関する情報（ガイドラインなど）を収集し、知識を深めます。
- 相談： 病院や施設の相談窓口、地域包括支援センター、弁護士など、専門家に相談し、アドバイスを求めます。
- 意見交換： 医師、看護師、介護士などと、患者のケアについて話し合い、意見交換を行います。患者の状況や希望を伝え、より良いケア方法を検討します。
- 代替ケアの提案： 身体拘束の代替となるケア方法を提案します。例えば、環境整備、見守り、リハビリテーションなど、患者の状況に合わせた方法を提案します。
- 記録： 身体拘束に関する記録（日時、方法、患者の反応など）をつけ、状況を把握します。
- 権利擁護： 患者の権利を守るために、必要な場合は、法的手段を検討します。
- 心のケア： 家族自身も、精神的な負担を感じることがあります。家族会に参加したり、カウンセリングを受けたりするなど、心のケアも大切です。
家族が積極的に行動することで、患者のQOLを向上させ、より良いケアを提供することができます。
将来のキャリアを考える高校生へ：介護・医療分野の仕事の魅力と課題
将来のキャリアを考えている高校生にとって、介護・医療分野は、人々の生活を支え、社会に貢献できる魅力的な仕事です。しかし、同時に、課題も存在します。ここでは、介護・医療分野の仕事の魅力と課題について解説します。
魅力
- 人々の役に立つ： 介護・医療の仕事は、高齢者や病気を持つ人々の生活を支え、人々の役に立つことができます。
- やりがい： 患者や入居者の笑顔や感謝の言葉は、大きなやりがいにつながります。
- 多様な働き方： 介護・医療分野では、様々な働き方があります。正社員、パート、アルバイト、派遣など、自分のライフスタイルに合わせた働き方を選ぶことができます。
- キャリアアップ： 資格取得や研修を通じて、キャリアアップを目指すことができます。
- 需要の安定： 高齢化が進む日本では、介護・医療分野の需要は安定しています。
課題
- 人手不足： 介護・医療現場は、人手不足が深刻化しています。
- 労働環境： 労働時間が長く、体力的な負担が大きい場合があります。
- 給与： 給与水準が低い場合があります。
- 精神的な負担： 患者の死や、病状の悪化に直面することがあり、精神的な負担を感じることがあります。
- 身体拘束問題： 身体拘束の問題に直面することがあり、倫理的な葛藤を感じることがあります。
介護・医療分野で働くためには、これらの課題を理解し、自分自身で解決策を見つける必要があります。例えば、労働環境の改善を求めるために、労働組合に加入したり、働きやすい職場を探したりすることができます。また、精神的な負担を軽減するために、同僚や上司に相談したり、専門家のサポートを受けたりすることも重要です。
介護・医療分野の仕事に興味がある高校生は、積極的に情報収集し、様々な体験を通じて、自分に合った仕事を見つけることをお勧めします。ボランティア活動に参加したり、介護施設の見学に行ったり、インターンシップに参加したりすることで、現場の雰囲気を肌で感じることができます。また、資格取得を目指すことも、キャリアアップにつながります。
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まとめ：身体拘束ゼロを目指して
この記事では、認知症患者の身体拘束問題について、その背景、問題点、解決策を多角的に考察しました。身体拘束は、患者の尊厳を傷つけ、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、可能な限り避けるべきです。介護・医療現場、家族、そして社会全体が協力し、身体拘束ゼロを目指すことが重要です。
具体的には、
- 介護・医療現場： 身体拘束をしないための知識・技術を習得し、代替ケアを検討する。
- 家族： 情報収集し、専門家への相談や意見交換を通じて、より良いケア方法を模索する。
- 社会全体： 介護・医療従事者の労働環境改善、人材育成、啓発活動などを推進する。
これらの取り組みを通じて、認知症患者が安心して生活できる社会を実現することができます。身体拘束の問題は、一人ひとりの意識改革と行動によって解決できる問題です。この記事が、その一助となれば幸いです。
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